本年度第Ⅱ期のコレクション展では、「初心の絵画」と題し、新潟市美術館の収蔵品に光を当てます。
「初心」とはどのような状態を指すのでしょう。「初心忘る可 (べ) からず」の金言に見るように、人生においては尊いものとして捉えられているようです。本展では、作品を通じて、二つの角度から「初心」について考えてみます。
まず、注目するのは、作家の生涯のうち早い段階に制作された、いわゆる「若描き」の作品です。具体的には、主に20代から30代前半の間に生み出された、「若さ」が印象的な作品を取り上げます。
これらの作品から、若いという状態は、種々の、一見相反するものが綯 (な) い交ぜになっているさま、と言うことができそうです。「うぶ (初・初心)」が「産毛 (うぶげ)」という言葉と音を同じくするように、若さには、真新しく儚 (はかな) げなやわらかさがあり、そのしなやかさには、これからいくらでも変化し得るような強い生命力もあります。一方、若さを象徴する青色には、生硬で未熟な果実のイメージもあるでしょう。その硬さは、成功へと逸 (はや) る気持から来る野心や気負い、プライドといった意識、あるいは、誠実さや率直さなど、生真面目な姿勢に由来するのではないでしょうか。
また、作家が、ある表現方法から別のそれへと移行する時期にも焦点を当てます。変化の過程における試行錯誤は、現状に甘んじず、常に初心へ帰ろうという意識から生まれるとも言えます。後から振り返れば、そのような段階の作品は、ある地点に到達した時の作品ほど世間的な評価を受けない場合もあります。しかし、模索の軌跡にこそ、作家のその人らしさや志向を見ることもできるのではないでしょうか。
本展に並べられた「初心」の作品に、観ている私たちは少し気恥ずかしさを覚えるかもしれません。それは、誰しもきっと、身に覚えがあるから。けれども、往時を思い返し受け容れることが、のちの豊かな実りへとつながっていくのでしょうし、現に芸術家の創作には、その絶え間ない繰り返しという側面もあるはずです。彼らの「初心」そのものを、見守る心持でご覧いただけたら幸いです。