フィオナ・タンは、しばしば古い記録フィルムや写真を素材とし、ときにドキュメンタリーとフィクションとの間を往還しながら、集団や個人における文化的差異がいかに記録され、また人々の記憶に留められてきたかを繊細に問いかける作品で、国際的な評価を確かなものとしてきました。
静止写真、フィルム、ヴィデオ、ディジタルヴィデオといった異なるメディアを用いながら、常にその作品に通底しているのは、見るもの/見られるものが交錯する視線のポリティクス(政治性)や、表象することの不可能性を前にしたもどかしさ、そして、その不可能性を引き受けつつ、それでも映像だからこそ伝え得ることへの希求です。
1998年に初めて作品が日本で展示されて以来、フィオナ・タンの作品は、国内でも折々に発表され、また日本に由来する作品も多数手掛けています。その細部にまで行き届いた美意識と、イメージをめぐる深い思索は、多くの関心と支持を集めてきました。本展では、大きな注目を集めた2009年ヴェネチア・ビエンナーレオランダ館出品作や、その後の作家の新たな展開を含めた新旧の代表作を通じて、写真と映像の本質に迫る問いを詩的かつ批評的に投げかけるフィオナ・タンの世界をご紹介します。