着想から完成まで ―原画から探るシベリア・シリーズ
長門市三隅で生まれ、豊かな自然に恵まれたこの山陰の小さな町で制作をつづけた香月泰男(1911-74)。彼の名を全国に知らしめたのは、戦争とシベリア抑留の体験を描いたシベリア・シリーズでした。黒と黄土色が特徴的なその画面は、描かれた主題の厳しさ、そしてモティーフの単純化/抽象化によって、ときに鑑賞者を試すかのような厳粛な雰囲気を漂わせています。しかし、完成した油絵がどれほど抽象的な作品であっても、そこに描かれているのはあくまで現実に起こった出来事です。香月にとって油絵を描くということは、目にしたイメージを膨らませ、余分なものをそぎ落としながら、対象の本質を浮かびあがらせる行為でした。
このたびの展覧会では、香月泰男の没後40年を記念して、シベリア・シリーズとその下絵になった素描や関連資料を併せてご紹介します。着想から完成にいたるシベリア・シリーズの造形的な変遷を辿る本展は、画家が作品に込めた想いを見つめなおす絶好の機会です。