文学者、画廊主、美術収集家として知られる洲之内徹(1913-1987)は、1961年より小説家・田村泰次郎から引き継いだ現代画廊で、個性あふれる数多くの作家を紹介しました。また、雑誌『芸術新潮』に14年間(1974-1987)165回にわたって、美術エッセイ「気まぐれ美術館」を連載し、その独特の語り口は多くの熱心な読者を獲得し好評を博します。洲之内は「五十代の終わり頃から六十代にかけての十年余り、私の身の上に起ったことのすべての背景には新潟がある」と振り返っていますが、特に1969年以降、新潟との縁が深まり、阿賀野市・出湯温泉の石水亭を定宿に度々新潟を訪れて、佐藤哲三や田畑あきら子、峰村リツ子、木下晋など、多くの新潟ゆかりの作家たちも現代画廊の展覧会や「気まぐれ美術館」で取り上げました。
洲之内の没後、手許に遺された作品群は、現在「洲之内コレクション」として宮城県美術館に収蔵されています。本展覧会は、このうちの半数をこえる作品のほか、彼の著作の中で語られた作品や、現代画廊の初期にかかわる作品、洲之内が画廊経営を引き継いだ後の作家の作品など、56作家約190点と関係資料により展示構成いたします。洲之内徹という昭和を生きた一人の人間の目と精神を通して、戦後の新しい近代美術史像が生成されていく過程のひとこまを垣間見ると同時に、なぜ人はかくも美術に愛着をもつのか、という問いにあらためて思いをはせる機会ともなるでしょう。