森義利(1898~1992)は、下町の風物や歌舞伎、平家物語や源氏物語をテーマに躍動感あふれる版画作品を制作し、日本だけでなく海外での評価も高い作家です。もともと染色家であった森は60歳を過ぎてから版画家に転身し、防染糊を用いて布を染め分ける型染の技法を伝統的な版画技法「合羽版」に併用し、独自の技法を築き上げました。その作品は、画面から飛び出してくるような迫力に満ち、また森が愛した歌舞伎や東京下町の風情など、江戸の余香が漂う古きよき日本の姿が残されています。本展では森が生涯を過ごした町、東京都中央区が所蔵する作品を中心に、粋で洒脱なその作品世界をご紹介します。
合羽版ってなに?
「合羽」とはポルトガル語の"capa"を語源とし、ラシャや木綿に桐油を塗った雨具のこと。日本では柿渋や桐油を塗って張り合わせた紙を合羽紙といい、これに絵柄を切り抜いて型紙を作り、刷毛で絵具を摺り込んで紙に転写した版画を合羽版という。浮世絵など木版画の彩色にも用いられた技法。