―日本人の、心の富士―
2013年、世界文化遺産に登録されたことも記憶に新しい富士山は、私たち日本人にとって特別な存在であるとともに、大変身近な山でもありました。古くから聖地とあがめられ、修行の場とされてきた富士ですが、近世には庶民層にも信仰の対象として広く親しまれるようになりました。とりわけ江戸時代の町人たちの間では富士信仰が盛んでした。
そんな富士山をテーマに、稀代の名所絵師・歌川広重が画業の中で初めて制作した揃物(そろいもの)《不二三十六景》を展示いたします。葛飾北斎が有名な《富嶽三十六景》を発表してから約20年の後に広重が世に送り出した新しい富士像―。関東地方の36の場所から見た富士山の姿を、時に素朴に、時に大胆に描き出しました。本作では季節や場所によってさまざまな貌(かお)を見せる富士山を、広重が彼らしい優しく情緒的なタッチで表現しています。
本展では《不二三十六景》全36図が一同に出揃い、会場をぐるりと囲みます。どうぞ美術館で“富士巡り”の旅をご堪能ください!