中里伸也の個展は、双ギャラリーでは二回目のものとなります。
中里は写真の作品を発表しております。彼の初期のウジェーヌ・アジェのシリーズは、写真に撮られるまでに信じられぬ時間をかけています。アジェの写真を模して一点ずつ写真に撮影する前に19世紀のパリの町並みを作ってしまいます。驚くほど精巧にアジェの世界を作り、写真に撮って、それをセピア色で仕上げています。
彼になぜそこまで拘るのかと話を聞いたところ、写真そのものも大事だが、その狭間のようなものを撮りたいのだ、と言っています。
悪戦苦闘している時間は消えてゆき、そこに残るものはしんとした静寂の世界です。
今回の写真はケーキの生クリームをシーツに塗り付け、マチエールを作り撮影しています。それはセザンヌの静物画に良く登場するテーブルクロスのマチエールだと言います。一見写真本来の仕事から大きく踏み外しているようですが、写真しか表現出来ないことだと作家は言います。
他の作品はデ・クーニングの作品を准え撮っていると言います。全く異なる作品に仕上がっていますが、写真を撮る以前にアトリエで格闘している時間は限りなく長く、その時間の集積そのものが中里の仕事だと言えると思います。