歴史と風土、それぞれは縦軸と横軸となり日本の魅力の奥行きを形成している。古く奈良時代にも、歴史と風土がその縦軸と横軸とを交差させ、豊かな文化が形成されていました。さて、それから約1300年の時空を超えた今、奈良が生んだ一人の絵描きに注目します。彼の名は三瀬夏之介。奈良、京都、フィレンツェ、東北…と、これまでに彼が訪れてきたそれぞれの地から、多様な文化・風土を吸収した三瀬の作品は、ダイナミックかつ繊細で見るものを圧倒します。
1973年、奈良県出身である三瀬夏之介は、1999年に京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了、その後地元である奈良の高校で教鞭を取る傍ら、個展、グループ展の開催を重ね、2009年にVOCA賞、2012年には「第5回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展」で選考委員特別賞を受賞するなど、近年注目を集める日本画家です。現在は、東北芸術工科大学の准教授として後進の教育にも力を注いでいます。
本展では、三瀬の代表作である「君主論-Il Principe-」、「ぼくの神さま」(ともに大原美術館所蔵)に加え、「日本」を正面からテーマに据えた「J」シリーズや、パブロ・ピカソの「ゲルニカ」からインスピレーションを受け、震災後に制作された大作「日本の絵」シリーズ等と共に、本展初公開となる「風土の記」をモチーフに、世界における日本、日本における奈良、といった壮大なスケールで三瀬の故郷「奈良」を表現した新作を紹介します。
三瀬ならではの視点と感性で表現される、飛鳥、奈良、そして「日本」。それはまさしく、歴史と芸術を交差させた現代の「風土の記」と言えるでしょう。