「存星 (ぞんせい)」とは、中国からもたらされた唐物漆器 (からものしっき) の一種です。舶来品の中でも「稀 (まれ) なるもの」として珍重された、言わば幻のような漆芸品でした。しかし、実のところ何が「存星」と呼ばれていたのかは明らかではありません。本展では中国宋・元時代の彫彩漆 (ちょうさいしつ)・填漆 (てんしつ) をはじめとする名品約60点を展示し(期間中一部展示替があります)、「存星」に焦点を当てた初の展覧会としてその実像の解明を試みます。
中国からもたらされた珍奇な品々「唐物 (からもの)」。その中でも唐物漆器「存星」は、室町時代から「稀 (まれ) なる物」として珍重され、茶人たち羨望の品でした。桃山時代の大茶人千利休 (せんのりきゅう)(1522~91) も生涯に3点ほどしか目にすることができなかったといいます。しかし、そもそも「存星」とはどのような作品なのか、またなぜ「存星」と呼ぶのか、語られる言葉はあまりに断片的でつかみ難く、その実像は必ずしも明瞭ではありません。現在では多くの場合、填漆 (てんしつ)(彫った文様に色漆を充填して平滑に研ぐ技法) や漆絵 (うるしえ) に線刻 (せんこく)・鎗金 (そうきん)(線刻した溝に金箔や金泥を埋め込む) を併用するものを称します。ところが「存星」の名を持つ伝世品にはこれに分類できないものも少なくなく、しかも種類が多彩です。唐物漆器を文様や色彩などから細かく分類した室町時代から、江戸時代を経て近代にいたるまで解釈は様々で、その間に多彩な「存星」が存在したことが想像されます。本展では、彫彩漆 (ちょうさいしつ) や填漆など、「存星」と呼ばれてきた数々の名品約60点を集め(期間中一部展示替えがあります)、定義の問題も含めて検討します。豊穣な中国漆器の世界を前にして、室町時代の将軍家に仕えた同朋衆 (どうぼうしゅう) や、桃山・江戸時代の茶人たちが何をみて、どこを鑑賞したのか。歴史の雲間に見え隠れする「稀なるもの―存星」の系譜を描きます。