入江泰吉は戦後から約半世紀にわたって奈良大和路を生涯のテーマとして撮影してきました。その対象は仏像、風景、伝統行事、万葉の花など多岐にわたり、どの作品も単に記録にとどまらず、奈良大和路の奥深い魅力と、撮影にかけた入江の思いが込められています。これらの作品はテーマごとにまとめた写真集や関連の書籍として出版されてきました。
特に昭和45年以降は、最初の本格的カラー写真集『古色大和路』(保育社)を手始めに、平成4年の『東大寺』(小学館)まで、毎年数冊を発表しています。また、作品の集大成として『入江泰吉写真全集(全8巻)』や『大和路巡礼(全6巻)』(いずれも集英社)をシリーズで刊行するなど、精力的に活動しています。このように、つぎつぎと写真集を発表することで入江の作品は脚光を浴び、広く知られることとなりました。
本展は写真集などに収録された作品とそれらの書籍を通じて入江の軌跡をたどります。今回は「後期展」として、本格的なカラー写真の時代を迎え、入江が新たな大和路の表現法を模索しながら撮り続けた作品から、最後まで現役の写真家であることを貫いた晩年の作品までを紹介します。一冊一冊の写真集に込められた入江の思いをひもときながら、大和路の美に触れていただければ幸いです。