北代省三 (1921-2001) は、1950年代の東京でインターメディアの先駆的な活動をおこなった「実験工房」の中核となった作家です。「実験工房」の活動期、北代は絵画やモビール、舞台美術、映像制作といった幅広いジャンルの作品を手がけ、エンジニアの出自を思わせるメカニカルな作風で大いに注目を集めました。
1953年、写真家・大辻清司とのコラボレーションとなった「APN」をきっかけに、北代は写真を用いた表現を模索し始めます。1956年には「画家から写真家へ」という文章を発表、制作の軸を絵画から写真へと移行します。初期の構成主義的なかたちの探求、「グラフィック集団」への参加を経て、1960年代には商業写真家として急成長する産業の現場をとらえた写真も多数手がけました。もっとも北代らしい実験的な試みは、1967年に『アサヒカメラ』で発表した「未知のビジョン」のシリーズで、医療用の眼底カメラで日常を切りとる「虫めがね」のような視覚や、紙の舞い落ちる軌跡をマルチストロボで寸断集積したパターンなど、独自のイメージを作り出しました。
しかし1970年に撮影で長期滞在した日本万国博覧会の会場で、高度経済成長への強い違和感を覚えた北代は、それ以降、商業写真から距離を置くことになります。文明批評を執筆するかたわら、模型飛行機や凧といったモノづくりに没頭し、シミュレーションの世界に遊ぶ日々。1970年代の写真には、ラジコン模型飛行機を使った空撮、手造りカメラなど、手仕事へのこだわりと悦びが感じられます。
本展は、北代省三の多彩な活動の中から、彼の写真の仕事に焦点をあて、その全体像を俯瞰してみる試みです。「実験工房」や「グラフィック集団」から派生した写真、商業写真家としての側面、実験的な手法の追及、そしてピンホールや手造りカメラ。遊びと好奇心にあふれた北代省三の写真と実験の世界をどうぞご覧ください。