魅力的な物語は、テキストが長く読み続けられるだけでなく、しばしば絵画化され、絵画とともに親しまれてきました。『源氏物語』には、『伊勢物語』などの物語を描いた絵巻物が多く登場することが知られ、古くから物語に絵画をあわせて楽しまれていることを教えてくれます。
時代の趨勢 (すうせい) の中で様々な物語が生まれ、絵巻、画帖、扇面、掛軸や屏風など、様々な形をとりながら物語は絵画化されました。優雅な貴族の恋や苦悩を題材とする王朝物語と、勇壮な武士の戦を題材とする軍記物語や幸若舞 (こうわかまい)、庶民も主人公となり活躍する御伽草子 (おとぎぞうし) では、物語を描く上で適する表現も異なります。また一方で、時代により物語の読者層は変化し、好まれる絵画の様式も変化してゆきます。物語絵は物語の内容や読者層、時代の好み、絵画の形体などを反映して、多様に展開します。
本展観では、館蔵品に特別出陳作品を加え、王朝物語や軍記物語、御伽草子、幸若舞、仏教説話など、様々な物語を絵画化した平安時代から江戸時代までの作品を展示します。物語のジャンルや時代による表現の変化、絵画の間の影響関係などに注目しつつ、文学と美術の世界が出会い生み出された豊饒な物語絵の世界をたどります。 (担当 宮崎もも)