厚岸町の「正行寺 (しょうぎょうじ) 本堂」は、江戸時代・寛政末から享和年間に現在の新潟県糸魚川市に満長寺本堂として建立され、その約百十年後の明治四三 (一九一〇) 年に現在地に移築されました。本堂は白木造りの建物で、内陣は極彩色の柱や梁 (はり) をはじめ、牡丹 (ぼたん) の透彫 (すかしぼ) りが施された欄間 (らんま)、十六菊花紋が描かれた格子天井などを備え、豪華さと格調の高さを誇っています。
一九九二年、建造物として道東では初めて国の重要文化財に指定され、二〇〇六年からは、三ヵ年にわたって大規模な保存修理工事が行われました。その際、銀箔の上に梨子地漆 (なしじうるし) をかける「白檀塗 (びゃくだんぬり)」の技法によって描かれた創建当初の《松鶴図襖》 (二組) の復元模写が、日本画家・馬場良治氏によって制作されました。「白檀塗」による紙の襖は現在のところ類例が知られていない希なもので、かつての黄金の輝きがよみがえった襖は、華麗なる江戸時代の障壁画の様式を今日に伝えています。
本展では、復元された襖絵と、伝世の襖絵を比較展示し「白檀塗」の技法に光を当てるとともに、馬場良治氏の日本画もあわせて展覧します。また、正行寺伝来の数々の貴重な資料、および本堂の内観や外観を撮影した写真作品等によって、移築から百年余にわたる歴史や近世社寺建築がたたえる美の世界など、その魅力を総合的に紹介します。
※文化プロジェクト=本展は、文化庁による国庫補助保存修理事業 (平成一八―二十年) の成果の一部を展覧するものです。