フェリシアン・ロップス(1833-1898)は、19世紀後半に活躍したベルギーを代表する画家・版画家のひとりです。
生地ナミュールで絵を学んだ後、ブリュッセル大学で哲学を学びつつ、本格的に芸術活動を開始しました。1856年23歳の時、莫大な遺産を引き継いで諷刺雑誌『アイレンスピーヘル』を発刊し、自ら版画を手がけます。その後1862年にパリへ出て、版画技術に磨きをかける一方で想像力あふれる挿絵画家として活躍し、その特異な才能を開花させました。特に1866年にはボードレールの『漂着物』の扉絵を制作し、広く知られることになります。
ロップスをロップスたらしめたもの、それは当時のブルジョワ社会が偽善的モラルで覆い隠していた人間が生来もつエロス(欲望)をありのままに描いたことであり、その衝撃的な主題は新しい戦慄を人々の心に呼び醒ましました。華やかな社会の暗部に光をあて、ロップス流の醒めたまなざしで、ときにはグロテスクときにはエロティックに、爛熟した都市生活やその底辺に生きる人々の姿が浮き彫りにされます。一方でロップスは自然をこよなく愛し、故郷や外国を幾度も訪れては写実的な風景画を多く描きました。
都市と自然、豪奢と貧困、正義と悪、光と闇、こうした相反する要素は、どちらもロップスにとっては「現実」であり、彼の「目で見、神経で感じたまま」に作品化されました。
没後100年を経た今日、ナミュールにあるロップス美術館の全面的な協力を得て開催される本展は、日本で初めての本格的な回顧展となります。油彩、水彩、版画、関連資料など約140点で校正される本展はロップス芸術の全貌に迫るものとなるでしょう。そして人間の本質に鋭く迫る現実主義者ロップスを再発見し、我々の心にも新たな震撼をもたらすにちがいありません。優美で繊細、かつ大胆な芸術表現を是非ご堪能ください。