「写真は芸術ではない!」。マン・レイがしばしばこのように主張していたのは実に不思議なことです。なぜなら、絵画、彫刻、写真、映画など多方面の分野に独特の才能を発揮したこの芸術家の仕事のなかで、写真だけが例外とは言えないばかりか、むしろマン・レイこそが写真を芸術たらしめた最初の人に他ならないからです。写真家の仕事は、自然の一隅や、人物の表情の一瞬の把握に独創性を発揮することにのみあるのではありません。彼の仕事は暗室での作業のなかで、フィルムに写し取られたイメージと自己の想像力のうちなるイメージとをひとつに照応させることにあるのです。この瞬時の緊迫した作業のなかで彼は、「ソラリゼーション」、「レイヨグラフ」などと命名された画期的な表現法を発明しました。ここで彼は、くしくも事故のペンネームとして選んだ「マン=人」と「レイ=光」とを繋ぐ魅惑のアートの数々を生みだしたのです。本展は未公開の個人コレクションのなかから、500点を越す彼の多彩なフォト・アートの世界を紹介します。