新井淳一[1932-]は、自由な発想で先鋭的な「まだ見ぬ布」を次々と生み出してきた稀代のテキスタイル・プランナーです。未来を見据える布づくりには伝統的な手仕事への愛情と、革新的な科学技術への夢が注がれています。
新井淳一は桐生市に生まれました。学生時代は文学や演劇に親しみ、高校卒業と同時に家業である織物業に従事します。従来の布地製作にとどまらず、早くから新しい布の創作をはじめました。天然素材を多用し、素材本来の性質を最大限に引き出した布、コンピュータを駆使して複雑な模様を描き出したジャカードの布、透明フィルムに金属を蒸着させた金銀糸で織った超軽量の布、さらにその布の金属部分を薬品で部分的に溶かし、透明と反射を共存させた布。新井の既成の枠にとらわれない布づくりは常に見る者を驚かせてきました。
1970年代から1980年代には世界的なファッションデザイナーとの協働により、さらに制作の幅を広げています。その独創的な布は世界中から注目を集め、2011年には英国王立芸術大学院より名誉博士号を授けられました。
本展は、1995年に当館で開催した「新井淳一・熊井恭子二人展 『光と風と』」に続く、新井淳一の二度目の展覧会です。布によるインスタレーションを交え、新井淳一のおよそ60年にわたる布づくりを紹介するとともに、発想の原点となった民族衣裳もあわせて展示します。さらなる発展を遂げた新井淳一の布の息吹を感じながら、めくるめく空間をご堪能ください。