現代彫刻家、棚田康司は一貫して木彫に取り組み、特に2001年ベルリン滞在後からは「一木造り」という日本古来の木彫技法によって「少年少女」を彫りつづけてきました。手足が長く脆弱なほど細身で不安定に立ちながらも、揺るぎない意思と神秘性を秘める少年少女たちは、「人間」の本質を現し、今日の世界に生きる人間像を投影しているといえるでしょう。
本展のタイトルにある「たちのぼる。」という言葉は、煙のようにゆらゆらと揺れながら天空へ昇っていく少年少女をモチーフとする、本展初公開となる最新作につけられたタイトルでもあります。本作は、東日本大震災の被災地である東北生活文化大学高等学校美術コース(仙台市)と、阪神淡路大震災が起こった年に生まれた兵庫県立明石高等学校美術科の生徒たちの協力のもと制作され、あらゆる試練に遭遇しながらも一人の人間として上昇するイメージ、また上昇して欲しいという想いが込められました。
関西初の大規模個展となる本展では、大学院修了作品から最新作までの約50点の彫刻、さらに制作の源泉であるスケッチなどを展示し、棚田の制作を網羅的に紹介します。また隣接する旧岡田家住宅・酒蔵(江戸時代/重要文化財)にも作品展示するなど、存在力をもって立ち現れる像たちが構築する深遠な世界をご覧いただきます。