[1]
「私は本当はケンタウロスとして生まれてくるべき存在だったのだ」
そう気がついた彼の足は二本。
彼はすでにして身体の不自由なケンタウロスだった。
本来の姿を取り戻すため、義足を求め旅に出る彼を、誰が止められようか。
ただ心ばかりのはなむけをここに贈る。
[2]
彼には欲しいものがあった。
それさえ手に入れば理想を現実のものにできる。
それを手にしている自分こそ、あるべき自分の姿であると確信していた。
しかしそれを手に入れる方法を彼は知らなかった。
彼にとって「あるべきものがここにない」ということは、肉体の欠損にも似た大きな喪失であった。
彼は自ら“あるべき私の姿”を決定づけることで、確かに自分の一部を失ったのだ。
何も手放していない。はじめから持っていなかったものを、失った。
持っていなかったものに代わる何かを、彼は知ることができない。
だから、彼の抱えた喪失がそっと別の何かに置き換わる瞬間を、彼は算段できない。
しかし、その僥倖を発見できるのは他でもない、喪失を抱えた彼しかいない。
失ったものを補えるのは、彼の知らない何かだ。
彼は自ら選んだものを追求するかぎり、無垢な身体を携えたまま、ただ無防備に失い続ける。
彼の身体は、知らない何かを失い、知らない何かを得ることで、別の何かに置き換わってゆく。