近代陶芸の巨匠・松井康成は1927年 (昭和2) 長野県に生まれました。1944年 (昭和19) 戦時疎開のために茨城県笠間に移住し、1960年 (昭和35) 自ら住職を務める月崇寺 (げっそうじ) 境内の窯を復興して、以後約10年間、中国、朝鮮、日本の古陶磁の技法を研究しました。その後、中国宋代の磁州窯の流れを汲む練上の技法に絞った創作活動を始め、その美を追求していきます。「練上」は、種類の異なる土を組み合わせて模様を作る陶芸の技法のひとつですが、収縮率の違いから乾燥や焼成の段階で破損しやすく、高度な技術を要します。
1976年 (昭和51) にその特徴から生じるひび割れを意識的に装飾文様とした「嘯裂 (しょうれつ)」を発表、ロクロ成形の工程から発想の転換を得た独自の練上げ表現を生み出しました。以後「象裂 (しょうれつ)」、「破調練上 (はちょうねりあげ)」、「堆瓷 (ついじ)」、「風白地 (ふうはくじ)」、「晴白 (せいはく)」、「萃瓷 (すいじ)」と次々に練上技法を追求、晩年の「玻璃光 (はりこう)」に至るまで作風を変化させ続け、多様な質感と色彩溢れる斬新な練上の美の世界を展開しました。
そして1988年 (昭和63) に紫綬褒章、1993年 (平成5) に重要無形文化財保持者に認定されます。また、1993年 (平成5) 茨城県より特別功績者表彰、2000年 (平成12) 勲四等旭日小綬章を受章しました。
本展では、伝統技術を基盤とした創造性豊かな表現で現代陶芸史に足跡を残した松井康成の没後10周年を記念して、松井の全技法を茨城県陶芸美術館の所蔵作品を中心に、関連資料をあわせて紹介いたします。