単純化したフォルムの人体彫刻で知られる彫刻家・六﨑敏光氏は、1938(昭和13)年に旧満州に生まれました。茨城大学在学中に茨城県美術展覧会(県展)にて県教育長賞を受賞するなど、彫刻家として確かな一歩を歩み始め、大学卒業後は一陽展に初出品、特待賞を受賞しました。以降、一陽会や茨城県芸術祭を中心に数々の作品を発表し続け、1990(平成2)年、第3回ロダン大賞展で「であい」が美ヶ原高原美術館賞、1995(平成7)年茨城県芸術祭美術展覧会で「郷」が横山大観賞を受賞するなど、茨城県内外で高い評価を得てきました。
六﨑氏は、学生時代に師・後藤末吉(彫刻家、茨城大学名誉教授、1931年~)から具象彫刻の基礎を学びながら、20世紀を代表する彫刻家たち、アルベルト・ジャコメッティ(スイスの彫刻家、1901~1966年)や、オシップ・ザッキン(旧ロシアの彫刻家・画家、1890~1967年)、ヘンリー・ムーア(イギリスの彫刻家、1898~1986年)などの作品に深い感銘を受け、抽象的造形が秘める力強さに惹かれていきました。そして自らも具象的な人体をモティーフに、様々な抽象的表現を試みるようになります。また、大学の先輩であった山崎猛(彫刻家、茨城大学名誉教授、1930~1998年)のすすめもあり、一陽会を制作活動の拠点にしながら、より一層、抽象的な形態―フォルム―を探求するようになりました。しもだて美術館では、そうした六﨑氏の抽象的表現を代表する作品2点を、平成16年度に、六﨑氏から寄贈を受けています。
今展では、岩や樹木のような自然界のモティーフと人体とが融合した初期の作品から、曲線的かつ明快なフォルムへと変化し抽象化された人体彫刻、そして近年、究極まで単純化されたフォルムの研究とともに新たに生み出された、空気・風といった目に見えざる存在を表現した作品までの創作の軌跡を、六﨑氏の作家活動55年を記念して、55点の作品により展覧します。併せて、写真パネルで野外モニュメント作品をご紹介する他、マケット(ひな型)、石膏型も含めて、作品ができるまでの過程も展示します。
会期中には「抽象彫刻の見かた」と題した六﨑氏と当館館長による対談や、テラコッタ粘土を使った彫刻制作ワークショップも開催します。難しいと感じてしまいがちな彫刻が、よりわかりやすくなるイベントですので、ぜひご参加ください。