宮城県大崎市には日本最大のマガン越冬地である「蕪栗沼」があります。蕪栗沼と周辺水田は、2005年11月にラムサール条約湿地※にも登録されました。冬になるとロシアから渡ってくるマガンなどの渡り鳥が10万羽を超え、昼は沼周辺の田んぼで落ち穂をついばみ、日没前には四方八方から帰ってきて「ねぐらいり」をします。朝、日の出頃にいっせいに田んぼへと飛び立つ姿は、地響きのような音をともない壮観な様子です。かつて、蕪栗沼の水面は非常に狭く、多くの渡り鳥が越冬できる環境を保つことや、渡り鳥が稲の穂を食べてしまう食害は、渡り鳥と人との共生にとって大きな課題でした。
そこで、渡り鳥との積極的な共生を目指す取組みを始めました。冬期間水田に水を張る「ふゆみずたんぼ」です。冬は田んぼを渡り鳥の休息地として、春から秋にかけては有機栽培でお米づくりを行うことで「渡り鳥との共生」が可能になりました。「ふゆみずたんぼ」により冬場に稲わらの分解が進み、今では微生物や生きものがすっかり豊富な土壌になりました。生物多様性の保全や環境共生型農業に取り組んできた人々の営み、自然の美しさ、命の大切さをたくさんの方に知っていただきたい、ふゆみずたんぼを広めたいという思いで、「蕪栗沼・ふゆみずたんぼプロジェクト」(2011年度、総務省「緑の分権改革調査事業」)が始まり、その一環でこの絵本も制作されました。葉祥明自身が蕪栗沼を訪れ、その取材を元に完成した作品は渡り鳥と自然と人間との共生・調和を考える素晴らしい絵本となりました。葉に「一度見たら一生忘れられない素晴らしい光景」と言わしめた世界を是非ご覧下さい。
※「蕪栗沼」はラムサール条約で登録された湿地帯です。
動植物の保全を促す目的のために重要な湿地、湿原、沼地、干潟等を保護し、同時に開発による破壊を食い止めるための国際条約です。