1905(明治38)年、石川県に生まれた寺島貞志(ていし)は、大正末期に結成された急進的グループ「造型」に20歳のとき参加。その後、パリとモスクワで絵を学び、社会主義リアリズムの画家として活動します。
25歳のときに描いた女子青年共産同盟員を意味する「コムソモルカ」は、健康的な労働者の若い娘を生きいきと描き、日本プロレタリア美術が生んだ秀作とされます。さらに、太田英茂が主宰するデザイン事務所で広告美術の仕事に携わり、労働者をテーマにした優れたグラフィックデザインを世に送り出しました。
戦火が激化してきた東京をのがれ1945(昭和20)年4月、妻の実家があった岩手県花巻市に移り住んだ寺島は、以来1983(昭和58)年、77歳で亡くなるまで、自然に育まれた花巻周辺の農民の生活や農村風景をテーマに描き続けました。
戦前にはプロレタリア美術の画家として、時代を映し出す作風であったものが、戦後は自然と向き合い、牧歌的風景を描きだす農村画家として歩みました。今回の展覧会では、彼の前半期にあたる戦前、戦中作品に焦点をあて、若き寺島の躍動する表現性を検証します。