1950年代半ばから今日まで旺盛な活動を続ける日本を代表する写真家・東松照明(とうまつしょうめい1930年-)の写真を特集いたします。
岩波写真文庫《水害と日本人》(1954年)、写真集《〈11時02分〉NAGASAKI》(1966年)など、既存の報道写真の概念を大きく踏み越えた業績から、「写真の巨人」と評される東松照明(1930年-)は、日本の戦後史の特徴をアメリカニゼーション(米国化)と捉え、1959-67年にかけ全国の米軍基地周辺を取材します。そして占領シリーズの最後の地として、1969年に初めて沖縄を訪れ、写真集《OKINAWA 沖縄 OKINAWA》(1969年)を制作しました。しかし、沖縄の島々を取材する中で、アメリカニゼーションを拒む強靭で良質な文化と遭遇し、その強烈なカルチャーショックから名作《太陽の鉛筆》(1975年)へと結実させます。
沖縄に滞在して以降、東松は以前の作品とは明らかに異なる、淡々としたカラー写真を撮り続けています。戦後日本の社会と日本人を見つめ、状況の深層を鋭く視覚化する写真を提示してきた東松が、なぜ、私たちの解釈や比喩を拒絶するかのような寡黙なカラー写真の制作にこだわり続けているのか。東松照明のモノクロームからカラーへの転換を考えること、それは写真を手段とした一人の表現者の軌跡を辿ることであり、同時に、見る側の視線の変化を問い返すことにもなります。
東松は自作を語るとき、自然と人工、現実と虚構(世界と写真)が重なり合う場という意味を込めて「インターフェイス(境界面)」という言葉を用います。これは「視る」ことで外界と関係を結びながら、写真という虚構のイメージを創り出す写真家・東松照明の基本的な立場表明であり、同時に、現実世界にも虚構の世界にも止まりえない「写真」の本質的な問題を私たちに再考させるものといえます。
本展はそうした写真家・東松照明が近年手がけるカラー写真158点を集めて展覧するものです。