■渋谷和良の世界 宝木範義
渋谷和良の魅力は劇的な振幅を持つ色彩の変奏にある。微妙なグラデーションを示しつつ推移してゆく地色。その上に浮かんで、まるで何かを演じているかのように、激しくいのちを放射するさまざまな線。そして、そのすべてを貫く自由。この画面に私たちが見るのは、およそありとあらゆるものが生起し、移ろい、彼方へと去ってゆく姿である。
おそらく画家自身が海辺のアトリエで過ごす日々は、あまりにも巨大で、しかも繊細を極め、人間の意識の枠を軽々と凌駕してとりとめがない自然と、その本質としての自由(いや混沌と呼ぶべきか)にぐるり囲まれているのであろう。
めくるめく自然に身をゆだねた画家が自問した、美とは何かの結果が、今、ここにあるテーマ「海へ」であるとするとき、それはきっとマラルメの詩とは違って、ヴィヴィッドな起伏と謎を懐胎した手触りで立ち現れているに違いない。