多くの人が同時に体験する大きな一つのできごとがあったとする。個別の生を生きてきた背景や、体験したその時における各人の感情や行動、できごとの前と後の生活の変化、周囲の人から受ける影響。それらの差異により、大きな一つのできごとは、人々の間でそれぞれ異なる捉え方をされ、そのどれもが間違っていない。
東京都現代美術館が継続的に開催している若手アーティストを中心としたグループ展「MOTアニュアル」。本年は、物事の通常の状態に手を加え(編集)、異なる状況(シチュエーション)を設定することで、日常の風景に別の見え方をもたらす7組のアーティストを取りあげる。彼らは自らの手で造形を行うのではなく、他者を介在させ、人々の想像力に委ねる。展示のみならず、パフォーマンスやワークショップ、テキストの要素を含み、一言でその作品の形態を表すことは難しい。しかし、一つのイメージに集約されることのない表現は、個別のできごとが矛盾を抱えながらも緩やかに連関しながら併存していることに気づかせてくれる。遠く離れているはずの時間や場所が隣接するような可能性が示されるのである。その時々の場所に合わせ、様々な表現方法をとるアーティスト達は、本展のためにそれぞれ新しいプロジェクトを行なう。彼らの試みは、私たちに能動的な思考を促し、新鮮な視点をもたらすことだろう。小さな風を起こすようなささやかな行為は、周囲にさざ波が広がるように、わずかに以前とは違う状態を作り出すのだ。
Making Situations, Editing Landscapes
風が吹けば桶屋が儲かる