田渕俊夫(1941-東京都出身)は、平山郁夫に師事、日本美術院で活躍する画家です。圧倒的な技術と優れた色彩感覚によって、日本画の魅力を再確認させる作品を次々に生み出しています。
画題は主に植物と風景であり、繊細に描かれた雑草の一葉一葉には受け継がれていく生命への畏敬が託され、大地を俯瞰するような風景画に、流れる悠久の時間への思いが込められています。
プロジェクタを使うなど、新しい技法を提示しつつ、伝統的な日本絵画の特質である装飾性、精神性を継承している点が、この画家のひときわ高い人気の理由でしょう。
今回の展観では、田渕の45年にわたる画業を、東京藝術大学大学院修了後に渡ったナイジェリアに取材した作品から、近年各地の障壁画を手がけるなかで、独自の境地に進みつつある墨画まで、52点の作品によって回顧します。
とりわけご覧いただきたいのが、震災後に逡巡しながら筆を執った、20メートルに及ぶ墨画の最新作《惶Ⅰ、Ⅱ》です。繰り返されてきた自然の営みを見つめ、再生への希望を語りかけます。