新潟に生まれた原 裕治(1948-2007)は愛知県立芸術大学で彫刻を学びます。大学院在学中に国画会の彫刻部門で新人賞を受賞するなど、当時からその具象彫刻における表現力は高く評価されていました。原の活動が大きな転換を見せるのは1970年代半ば、それまでの具象表現から一転して、砂や鉄さび、油絵具などを素材に、非具象の平面作品に取り組むようになったのです。以降ほぼ一貫して「水」をテーマとし、幾度かの作風の転換をみせながら作品を発表し続けます。その多くは平面作品のかたちをとってはいますが、様々な素材が何層にも塗り重ねられた面をグラインダーによって削り、彫り込んでいくという彫刻的な技法を用いたものでした。さらに90年代中頃に発表された木彫作品に見られる、水脈の動きを表したアンバランスな形態とダイナミックな動性感は、いわゆるバロック的な表現として注目されました。一方、90年代末に発表された木彫作品《マンデリオン No.2》は舟形の内側に人体が刻み込まれたものです。それまでの仕事とは趣を異にしたこの作品に対し、その後の展開が期待されましたが、2007年、病により惜しくも59歳の若さでこの世を去りました。
本展は初期の具象彫刻から、平面による抽象表現の各シリーズ、そして晩年の木彫まで、各時期の平面や立体の代表作によってその仕事の軌跡を辿る没後初の回顧展です。「身体の水脈と地球の水脈との共鳴を体現させようと試み」た“彫刻家”原 裕治の世界をぜひお楽しみください。