中国の明清時代、16世紀から18世紀にかけて、蘇州・南京・揚州など江南の諸都市では、商工業の発展を背景に華やかな都市文化が栄えました。都会にはさまざまなものや情報、そして人が集まります。経済の活性化にともなって人々の生活は豊かになり、絵画や工芸品を楽しむ社会階層は広がっていきました。俗を避けることを標榜する文人たちもこのような美術市場の発展と無縁ではありません。彼らは都市を舞台に活躍し、生活をとりまく嗜好品・贅沢品の趣味を洗練させていきました。この時代の美術には、長大な伝統を継承しつつ、時代の好みに合わせてそれを創造的に発展させる活気が満ちています。そこには、古代への尊崇の念と新奇なものへの興味の並存が見られるのです。
この展観では、彩色の美しさと吉祥的意味合いによって広い階層に愛された花鳥画、古画学習への意欲がうかがえる故事人物画・仕女風俗画、新しく中国に流人した西洋画法を貪欲に吸収した宮廷内外の作例などを通じて、都市の華やかな生活を謳歌する活気に満ちた明清美術の魅力を紹介します。同時に、当時の文人たちが、墨のかすれやにじみ、緩急を付けた筆の運びの中に独自の美意識を追求した山水画・花卉雑画や、彼らの肖像、こだわりの文房具などを展示します。都市の華やぎと筆墨のたのしみという、一見対照的に見えて、実は互いに深く関わり合っている2つの美の世界をお楽しみください。