海に山に、避暑地や海外にと、夏は多くの人々が旅を楽しむ季節です。この時期に合わせて当館では、「旅」をテーマに絵画を選び、美術館に居ながらにして旅行気分が味わえる、夏休みにふさわしい展覧会を企画いたしました。
日本で旅行が盛んになるのは、街道と宿場が整備された江戸時代のことです。特に江戸後期には旅への関心が高まり、とりわけ十返舎一九の滑稽本『東海道中膝栗毛』が大ヒットしました。そうしたブームを背景に生まれたのが歌川広重の浮世絵風景画シリーズです。中でも江戸から京までの道程を旅情豊かに描き出した《東海道五拾三次》(*「保永堂版」全55図・扉を前期/後期に分けて公開)は一世を風靡し、以降、同様の揃物が次々と出版されました。
明治時代になると、近代化とともに鉄道や航路などの交通機関が発達し、日本人にとって旅は一層身近になりました。画家たちも例外ではなく、新たな題材や技法を求め、また自己を見つめ直すために旅に出て、その経験から生まれた作品を数多く残しています。
本展では、「美術館で旅行!」をキーワードに、広重の東海道五拾三次をはじめとする日本各地の風景や旅する人々、横山大観の中国、速水御舟のギリシア、佐伯祐三や結城素明のパリ、平山郁夫のシルクロードなど異国の風景を描いた作品を展示し、画家の眼をとおして世界各地の魅力をご紹介します。この夏はぜひ、山種美術館でご家族、お子様、お友達とご一緒に、絵画鑑賞による夏休みの小旅行と、画家たちの個性あふれる旅の追体験をお楽しみください。