今年で没後10年を迎える薩摩郡さつま町(旧宮之城町)出身の帖佐美行(1915~2002年)は、彫金の伝統的な手法を基礎としながら、独自の創意と工夫による技法で壁面装飾や器物などに挑むことで、現代工芸の可能性を広げ、日本現代彫金のパイオニアとして活躍した彫金作家です。
13歳で上京した帖佐は、1930(昭和5)年、小林照雲のもとで金工の道に入り、その後、後に人間国宝となる彫金作家・海野清のもとで修業を積みます。27歳に文展での初入選後、彫金作家として本格的な活動をはじめ、1965(昭和40)年に日本芸術院賞受賞など数々の賞を受賞、そして1993(平成5)年には文化勲章を受章し、87歳で亡くなるまで彫金界の第一人者として活躍しました。
また、「日本新工芸家連盟」の結成(1978年)などに深く関与し、金工作家の地位向上、そして日本工芸界の発展のために尽力した功績も大きく評価されています。
その作風は、鳥や植物などの自然を丹念に観察して得られた有機的なフォルムによる図柄が特徴的で、温かく柔らかな表情をつくりだす金工の技法と調和し、現代の建築や生活空間に馴染むよう、用と美を兼ね備えた造形美へと昇華しています。
自然をモチーフに生命の輝きへの暖かな愛情が感じられる彫金作品と彫金下絵から、用と美の調和を求めた帖佐美行の創造の魅力をお楽しみください。