安藤瑛一の遺したもの
安藤瑛一氏は平成23年10月30日に急逝した。
その冬には自身の集大成として、さらに生涯最後の個展となることを覚悟し、重病の身でありながら準備に余念がなかった。また、北見はもとより北海道の陶芸界に残した安藤の功績に対して、「北見文化賞」が決定した直後であり、11月3日の表彰式には出席する意気込みだったが、まさかの出来事であった。
この陶芸展は安藤の遺志を継いで、安藤瑛一が残した数々の作品を、まさに「安藤瑛一の世界」として開催するものであり、その作風を鑑賞してもらうと同時に、安藤という人間が北見という風土に残した「安藤の世界」を感じてもらうために彼の作品と人柄を愛する仲間が企画した。
安藤は北見に生まれ、大学卒業後に益子で修行を重ねた。その後、帰北して山中に自分の窯を築き作陶に没頭したが、すぐに「道展」に入選し、後に「日本伝統工芸展」の正会員となった。
その後も数々の作品を世に問うたが、安藤は一ところに止まることを知らず、オホーツクの凍る寒気と、燃え盛る窯の炎、そして文字どおり風土の土と格闘し、次々に新しい作風を産み出した。
魚釣り文、しばれ絞、多面な壷、レリーフ作品と、次々に翩々とも見える「安藤の世界」は安藤の内面の表現であり、オホーツクへの想いが常にあった。
中でも安藤が寒さと格闘した「しばれ紋様」は世界で唯一無二のものであり、世間の高い評価を受けて多くの人の共感を得た。しかし安藤の心はそこに止まることなく、常に自身の多面な引出しから、また出会いから、新たな表現を追及し続けた。
一ところに止まらない安藤の作品は、オホーツクの波に転げる石のようでもあり、いち早いオホーツクの秋に葉を落として冬に耐え、春に喜びを告げて新たな再生の芽吹きをする草木のようでもある。
わたしたちは残念ながら安藤が産み出す新たな作品をもう見ることはできない。しかし安藤の遺した「安藤の世界」は、いつまでもわたしたちを魅了し続けることであろう。