1920年代を中心にしたアール・デコ期、電気は一般家庭にも普及し、電気照明を利用したシックでモダンなインテリアが、生活環境を一変させました。白熱電球の発明にはじまる電気照明は、直線と立体の知的な構成を特徴とするアール・デコという美術様式に出会い新しいラグジュアリーの概念を誕生させたのです。本展では、ドーム、国立セーヴル製陶所、ラリックなど、アーティストが手がけたデザイン性豊かな照明器具を中心に、テーブル・セッティングや家具を用いての再現コーナーを交え、アール・デコの芸術的空間演出をご紹介します。
第一部では「カラフル」をテーマに、パート・ド・ヴェール技法の照明器具を紹介します。この技法は、古代エジプトに起源をもつ、砕いたガラスを鋳型に入れて窯の中で熔かして焼き上げる特殊な製法で、アール・ヌーヴォー期に再興され、1920年代のアール・デコ期に花開きました。本展では、アルジィ=ルソーの照明器具を中心に、アール・ヌーヴォーと共通の自然主義に基づきながら、様式化されたアール・デコの特徴をもつ、カラフルで色鮮やかな作品を紹介します。
第二部は「シック」をテーマとし、サロンの再現展示を中心に、フランスのアール・デコの粋ともいえる作家ジャン・デュナンの漆芸パネル、光を透過する「磁器」の特性を利用した照明器具など、優れたデザイン性に加え、当時ならではの素材使いにより、興味深い作品を紹介します。
第三部では、ラリック作品を中心に、初公開の天井灯とオリジナル・セットによるテーブル・セッティングなど、食の空間に関連する作品を紹介します。ルネ・ラリックは透明ガラスを利用したモノトーンでシックな光の演出により、ラグジュアリーの概念を塗り替えました。
「光とスピード」と題したエピローグはレディエンス―閃光(せんこう):未来へ向かって―をテーマとし、光とスピードを主題にしたオブジェとポスターを展示します。電光や稲妻を連想させる放射線やジグザグ文様は、スピードを表わすモチーフと共に、躍動感を表すアール・デコの象徴的モチーフでした。
このように本展は、硬質で眩しい電気の光を、優れた芸術感覚により生活の中に取り入れた、20世紀初頭の知恵とセンスに出会う新しい体験となるでしょう。