このたび、アートコートギャラリーでは若手のペインター、吉岡千尋による個展を開催します。
一輪のバラが咲く茂み、闇夜に青く光る水銀灯、浜辺に腰掛ける貴婦人・・・。一編の詩を想起させるようなイメージを、吉岡は金属粉や顔料を定着させ入念に作り上げた下地の上に、控えめな色使いと素描のような筆致によって描き出します。それらのイメージの多くは、よく見ると正確に引かれたグリッド上に注意深く構成され、そこでは、モチーフがまとう物語性や叙情性と、それに対する慎重な距離感、そして、絵画の構造や物質性という、異なる次元の要素が危ういバランスで同居し、見る者を描かれた世界へと誘いながらも、同時にそれを拒むかのような、静かな緊張感を湛えています。
また、吉岡は、同一のモチーフを、グリッドを用いながら大小異なる2通りのサイズで描くという独自のスタイルによって一連の作品を制作してきましたが、今回の個展では、画面を小さなスケールから大きなスケールへと展開させることに意識的に取り組んだ絵画表現を試みます。
イメージを引き延ばしながら描き写す、というプロセスを通じ、画面上の絵具の盛り上がりや滲み、掠れなどの「現象」が入念に読み取られる一方で、全体としてのイメージ=「印象」は徐々に密度を失い、ある種の「欠落」を内在させる、不思議な儚さと空気感を帯びた図像として再構築されます。絵画の情報性と物質性がせめぎ合い増減する、揺らぎを孕んだ2つの画面は、鑑賞者の目を通して合わせ鏡のように影響し合い、イメージの成り立ちや、それを描く/見るという行為について、静かに問いを提起することでしょう。 (K.)
*[skannata]
フィンランド語。「スキャンする」の意。