王朝の昔より、長く豊かな黒髪は女性の美の条件として、容姿の中で最も重視されてきました。漆黒の髪を優美に見せる垂髪は、長い間、女性の髪型の主流でした。戦国時代になると、庶民の間で労働の際に髪を結う習慣が生まれ、「かぶく」に代表される異風を好む風潮と相まって、遊女や芸能者の間で男髷などを模倣した結い髪が流行し始めます。そして、江戸時代には結い髪が女髪の主流となり、経済力をつけた町人層を中心に、次々と新しい髪型が流行しました。時代による変化はもちろん、同時代にあっても、女性の身分や既婚、未婚の別、地域などによって様々なスタイルの違いがあり、その種類は数百に及ぶともいわれています。
このような江戸時代に花開いた結い髪の変遷を知る上で、流行の発信源である遊女や役者を題材とし、同時代の最新風俗をいち早く取り込んだ浮世絵は、まさに格好の絵画資料です。このたびの展覧会では、初期から明治時代までの浮世絵によって多彩な髪型を紹介します。あわせて、澤乃井櫛かんざし美術館のご協力により、凝った意匠の櫛やかんざし、結髪雛型を展示します。かつて女性たちが黒髪へ寄せた思いを感じていただくとともに、結い髪の豊かな文化をお楽しみください。