加納光於(かのうみつお)は1933(昭和8)年、東京・神田に生まれました。病弱のため中学を中退し、闘病の日々を送る中、10代後半から植物や微生物の形態に深く関心を寄せ、さらにアルチュール・ランボーなどフランス近代詩に耽溺しました。19歳の時には、古書店で偶然版画の技法書を手にしたことをきっかけに、独学で銅版画の制作をはじめ、1955(昭和30)年、22歳で初の銅版画集『植物』(私家版・限定8部)を刊行、翌年には詩人で美術評論家の滝口修造の推薦により、タケミヤ画廊(東京・神田)で初の個展を開催、以降、次々と版画による実験的、独創的表現を展開しました。そして1959(昭和34)年にはリュブリアナ国際版画ビエンナーレでリュブリアナ近代美術館賞を受賞、以後内外の国際展で受賞を重ねています。
本展では、化石や骨片、或いは宇宙を想起させるモノクロームの初期の銅板画、ガス・バーナーで焼いた亜鉛合金の版に、コバルトブルーなどの鮮烈な色彩がほとばしる60年代以降のメタルプリント、デカルコマニーの技法を援用し、色彩のゆらめきを一瞬に捕らえた80年代以降のリトグラフやインタリオ、そして90年代の色彩を自在に繰った円熟した版技法の時代まで、加納光於の変化にみちた版表現の歩みを、代表作で構成された大分市美術館所蔵作品約70点でたどります。