阿部浩(1946年足利生まれ 西東京市在住)は、新たな形と空間を模索し続けています。それは、彼の内面から紡ぎだされる「新しい美」です。阿部は美の創造の手段としてリトグラフ(石版画)を選びました。特に石版石によるリトグラフは、彼の創造の中心をなしています。近年、リトグラフは手軽な金属板によるものが大半を占めていますが、画面に奥行きや深みをもたせるには石版石のほうが勝っています。阿部は、製版はもとより、石の研磨、印刷まですべて手がけています。永年の経験により培った手わざにより微妙な諧調と豊かな厚みをかもし出しています。
また、阿部は、金属板による多色リトグラフ、シルクスクリーン、木版など石版石を用いるリトグラフ以外の技法も手がけ、各々の版ならではの効果を活かして多様な作品を作り出しています。ただ、そこに共通しているのは抽象的な線や形による内面的な空間です。あるものはダイナミックに鋭く立ち上がり、またあるものは架空の生き物のように旋回しつつほのかに浮かび上がります。いずれにせよ光と影が交差する空間構成は、リズミカルな心地よさとモニュメンタルな重厚さを同一平面上に表しています。そこには透徹した精神への高まりと新たな造形を切り開こうとする野生が同居しています。
本展は足利市立美術館に寄贈された版画作品を中心に、初期から最新作まで展覧する初の回顧展です。油彩画およびモノタイプ作品を交え阿部浩の全貌に迫ります。