工作少年、アベ・テンエイ
阿部典英は1939 (昭和14)年、札幌生まれ。1960年代初めに抽象絵画で注目され、前衛美術のグループに参加しながらゴム、メッキ、ウレタンなど工業的な素材を用いた立体作品を発表します。ついで木を素材に、黒鉛を塗り込めた彫刻やあざやかな彩色を加えたレリーフ、そしてインスタレーションへと制作を展開させました。実はこうした歩みの原点は少年時代にあり、美術家・阿部典英の奥底には今も工作少年の心が息づいているのです。
イメージは海から、創作は身近な素材と手法から
小学校に入る前から中学生になるまでの7年間、阿部典英が過ごしたのが北海道東島牧村(現・島牧村)でした。日本海に面したこの村で、阿部少年は生活のための家事労働を担うとともに、厳しくも恵みゆたかな自然を心に刻み込みました。当時親しんだ海の生き物たちは今も阿部典英にとって最もゆたかなイメージの源泉であり、また、戦後の物が乏しい時代であったがゆえに自分の手で生活や遊びの道具を工作した原体験が、身近な素材と手法によって立体を生み出す創造性につながっています。
自由な書から5メートルを超える新作まで、創造の深海を探る
本展では初期の絵画から新作の立体までの代表作とともに、ほぼ未発表の高校時代の自由な書、立体の制作と並行して描かれてきた素描などを展示します。既成の芸術に対する大胆な反抗と軽やかな遊びの心、力強い造形、そして自らの眼と手で素材とその扱い方を見出すという、もの作りの知恵と楽しさが魅力の阿部典英。その創造の海を深くまで探ります。