18世紀に発明されて以来、文明の大きな機動力となってきた蒸気機関車は、20世紀にほとんどその姿を消しました。しかし、その勇姿は、鉄道ファンのみならず、多くの写真家たちがカメラにおさめてきました。
本展では、清里フォトアートミュージアムのコレクションから、記録を超えた高い表現力をかちえた日米二人の写真家による鉄道写真の世界を紹介します。
日本を代表する鉄道写真家、広田尚敬は、1968年の初個展「蒸気機関車たち」以来、鉄道写真界に新風を吹き込み、「広田調」といわしめた独特の表現を確立しました。日本の豊かな自然の中を走る蒸気機関車の姿を巨大な生き物のようにとらえ、また、煙や鉄塊を大胆にデフォルメしたイメージにより、疾走する蒸気機関車の躍動感を象徴的に描き出しました。
一方、工業写真を専門としていたO.ウインストン・リンクは、1955年から蒸気機関車を撮り始め、1962年に廃止されるまでの間を見つめ続けた写真家です。夜間に膨大な光量のフラッシュをたいて撮影された作品は、鉄の躰の質感だけでなく、機関車を取り巻く人々との関係を、映画のワンシーンのように切り取って今に伝えています。
昔から、信越本線、磐越西線、羽越本線の三線が交差する鉄道の要衝として知られる、「鉄道のまち」新津。現在も人々のロマンをのせたSLが走る当地で、暮らしに密着した存在だった蒸気機関車の、写真表現を通した美しさにあらためて目を向ける機会となるでしょう。
会期中、ウインストン・リンクの未公開フィルムや撮影方法を再現したビデオ「夜を駆け抜けた列車」、広田尚敬撮影の最新ビデオ「Little Local Line」もあわせて上映します。