第二次大戦終結前後に横須賀に生まれた原口典之(1946-)と若江漢字(1944―)は、ともに社会のありようを真摯に見つめ、現代社会に対してときに懐疑的、批判的な立場で制作を行ったきました。
1960年代末に作家活動を開始した原口典之は、ドクメンタ6(1977年)に出品したオイル・プールで、鈍く光る廃油の油膜に周囲の人物、環境を鏡像として取り込み、新たな空間を作り出しました。その後も、鉄やアルミなどの金属、ゴムやポリウレタンといった大量生産された工業素材を用い、時代状況を反映した作品を一貫して制作しています。版画、写真から出発した若江漢字は、1982年文化庁芸術存外研修員として滞独中にヨーゼフ・ボイスを訪問し、その影響のもと立体、インスタレーションへの取り組みを強めます。近年は平面にも取り組む一方で、1994年に自宅敷地内にカスヤの森現代美術館をオープンし、ボイス作品には、われわれが日常的に接する既製品や大量生産品が用いられています。しかし、原口が素材のもつ表面性や物質性を顕在化させるのに対し、若江はオブジェや写真を組み合わせたインスタレーションによって近代史の表象を試み、方向性は明らかに異なります。
本展では、原口の平面作品と若江の写真、インスタレーション作品を取り上げ、“モノ”に対する両者の違いに注目しジャンルにおいても対照的な展示を行います。時代や社会とのかかわりの中で制作する原口と様々なメディアに展開する若江の活動を通して現代美術のありようをご覧ください。