画家であり、絵本作家としても有名な安野光雄は、一方で深い思索と省察に裏打ちされながら、天性のユーモアに彩られた文筆活動でも知られています。その安野が近年、特に力を入れているのが明日香をはじめとする日本のふるさととも言うべき奈良の風景です。ここ10年以上にわたりたびたびスケッチに訪れ、2009年には『明日香村』(日本放送出版協会)を上梓し、『産経新聞』紙上で「日本のふるさと奈良」を連載しました。そこには、親しみやすい絵だけでなく、珠玉の文章も添えられました。今回の展覧会は、スケッチの拠点としてたびたび立ち寄った万葉文化館において開催する奈良シリーズの集大成ともいうべきものです。
安野光雄は1926年島根県津和野町生まれ。旧制山口師範学校研究科を修了。1968年『ふしぎなえ』で絵本作家としてデビューし、以後、公刊された著書は200冊を超え、国際アルデンセン賞、ケイト・グリナウェイ賞、菊池寛賞など国内外での受賞歴は枚挙にいとまがありません。