駿河国府中(現在の静岡市)で生まれた十返舎一九(1765~1831)は、江戸時代後期を代表する戯作者で、文筆業だけで生計を立てた最初期の人物でもあります。弥次さん喜多さんの珍道中でお馴染みの『東海道中膝栗毛』は、約20年間にわたって刊行され、当時の大ベストセラーとなりました。
また、戯作者として評価を得る一方で、一九は自著の挿絵を描くなどしました。
江戸時代後期を代表する浮世絵師歌川広重(1797~1858)は名所絵、特に東海道の各宿場を描いた東海道シリーズでつとに知られます。東海道シリーズの成功の裏には、『東海道中膝栗毛』の爆発的な人気など、一九が準備した社会的背景が存在したことでしょう。そして、広重の東海道シリーズには必ずといっていいほど、旅人や駕籠舁き、宿場の人々が表現されます。どこか愛らしく、見るものを和ませるような人物表現には、一九の挿絵や戯画に通じるものが感じられます。
本展覧会では、東海道に深い関わりのある十返舎一九と歌川広重に注目します。一九の絵画作品とともに、当館が所蔵する広重「東海道五拾三次之内 御油」(保永堂版)など浮世絵も展示します。戯画や浮世絵のユーモアを存分にお楽しみください。