このたび多摩美術大学美術館では、『十文字美信「劇顔」と「FACES」』を開催します。
「劇顔」と「FACES」。いずれも写真家であり、多摩美術大学教授である十文字美信が顔をテーマに撮影した作品の展示である。
「劇顔」は1999年より撮り続けているシリーズで、すでに延べ140名ほどの役者を撮りおろしている。扮装をして舞台へ上がる寸前、あるいは舞台が終わった直後の数分間がシャッターチャンスである。どちらの瞬間にしても、役者はある宙ぶらりんな精神状態で撮影を強いられることになる。すなわち、舞台上の役と素の自分との「はざま」を撮られるわけである。こうして、撮られる役者と撮る写真家の一瞬の出会いでできた作品、80点あまりが展示される。
「FACES」は2009年から撮り始めた、十文字美信最新の作品シリーズである。十文字の考案した特殊な方法で、数十分かけてひとつの顔を撮るこのシリーズは、一回ではなく、数回はシャッターを押すことによって、ひとつの顔に時間をとりこむ。ブレ、ズレ、重なり、あるいは一部が消えることによって、見る側の想像力を刺激し、表情の奥にあるその人の個性や人間性を表現しようと試みた意欲作である。
この展覧会は、首から上の顔をフレームアウトした作品「untitled」(首なし)で写真家デビューした十文字美信の、「顔とは何か」を問う作品を展示する、多摩美術大学グラフィックデザイン学科の企画展である。