当館は、日本画家・山口蓬春(1893-1971)が昭和23年(1948)から亡くなるまでの約23年間を過ごした邸宅であり、既存の木造2階建て家屋を自邸として購入後に画室をはじめとした増改築を建築家・吉田五十八(1894-1974)が手掛けている。
蓬春と五十八は、大正4年(1915)に東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学し、ともに他人より倍の在学期間を経て大正12年(1923)に卒業した。五十八は、蓬春の自宅や画室を設計するだけでなく、自らが設計した建造物の内部に蓬春の作品を用いるなど、二人の間には芸術を通じた強い結びつきがあった。そして蓬春の亡き後、その墓石の設計を行ったのも五十八であった。絵画と建築の違いはあるにせよ二人はまさに同時代を生きた芸術家であり、同士でもあった。その二人によって造られたといえるこの旧山口蓬春邸は、芸術家同士の一つのコラボレーションともいえる。
また、当館の開館に際しては、建築家・大江匡(1954-)が従来の木造建築を活かしつつ近代性を兼ね備えた美術館として改築を行った。それにより当館は、日本画家と2人の建築家の感性が世代を超えて融合した場所ともなった。
本展では、当館の邸宅としての空間に焦点をあて、非公開である「桔梗の間」と吉田五十八が増築した「茶の間」を特別一般公開するとともに、この地で生み出された作品をその空間とともに展観することで「創造の場」としての旧山口蓬春邸の意義とその魅力に迫る。