日本を代表する山岳写真家・田淵行男(1905-1989)は、大山を臨む鳥取県黒坂村(現日野町)の豊かな自然に生まれ育ち、昆虫採集に熱中する少年時代を過ごしました。特に蝶の美しさに魅かれ、入念な観察と繊細な表現によってその姿を描く「写蝶」によって、高山蝶研究に取り組む礎を築き、後に『ヒメギフチョウ』や『高山蝶』を著すなど、博物学者押して多きな功績を残しています。
田淵は戦前戦後の物資難な状況の中、自作の写真帳『山のアルバム』を制作。これがきっかけとなり、1951年に『アサヒカメラ臨時増刊号 田淵行男山岳写真傑作集』が発行されると、当時の評論家らがその独自性を称賛し、写真家として認められるようになりました。山の雄姿、幻想的な光景、可憐に咲く花、そこに生きる小さな生命…、田淵行男の山岳写真は自然の持つ多様な側面を余す所なく伝えてくれます。
疎開をきっかけに東京から安曇野へ移り住んでからは、安曇野の自然に触れる中で、戦後の観光開発や農業生産増進が、豊かな生態系を損ない、安曇野の風景を変えていくことを憂いて、生態系の保全、環境保護に向けていち早く警笛を鳴らしました。作品集『安曇野』には、晩年の田淵による古き良き安曇野が収録されています。
本展は、田淵行男記念館の所蔵する73000点にのぼる作品・資料から選出した約60点により、田淵氏の活動の一端をご紹介します。