このたび奈良県立美術館では、近代陶芸の巨匠・富本憲吉の展覧会を開催いたします。
富本憲吉は明治19年(1886)、奈良県生駒郡安堵村(現・安堵町)に生まれました。東京美術学校(現・東京藝術大学)図案科に進学、イギリス留学の後、郷里に窯を築いて陶芸の道に入ったのは大正2年(1913)のことでした。以後50年にわたる陶業のなかで、楽焼にはじまり土焼・白磁・染付・色絵そして金銀彩と作域を広げ、数々の名品を世に送り出しました。
過去の様式の模倣によるところが大きかった当時の陶磁器制作に対して、富本は個性と独創性にもとづいた表現を重んじました。「模様から模様をつくるべからず」という信念のもと、身近な風景や草花から独自の模様を生み出したほか、形・技法も含め、常に新たなものを造り出そうとした生涯と言えるでしょう。本展では初期から晩年までの約110点の作品を通して、富本の創作活動の変遷をご覧いただきます。
伝統を尊重しつつも依存することなく、創造性・オリジナリティを追求して新境地を拓き続けたその歩みは、現在の私たちにも多くの示唆を与えてくれることでしょう。