日本の刀は折れにくく曲がりにくい、武器として優れた機能を有し、同時に長い鑑賞の歴史をもつ奥深い美しさを備えてもいる。名刀の美から感じられる強い生命力は、日本における刀の見方を深め、また独自の精神文化を育んだ。刀身に彫られた不動明王に見られる信仰心など、刀に託す「こころ」のはたらきは深く、また多彩な形をとってあらわれる。館蔵の刀剣コレクションから、古刀(平安時代後期から室町時代末期に制作)を中心に刀の「美とこころ」を伝える名刀約30振を厳選して紹介する。
五島美術館の刀剣コレクションは、宮廷に代々医師として仕えた福井家より昭和39年(1964)に寄贈された。刀剣を収集した福井貞憲氏は孝明天皇および明治天皇の侍医を務めた名医であり、古美術や茶の湯にも造詣の深い文化人であった。