1959年(昭和34)「総会屋錦城」で直木賞を受賞し、自ら確立した経済小説の第一人者として多くの読者に支持された城山三郎(1927~2007)は、「官僚たちの夏」など現代に取材した作品のほかに、「落日燃ゆ」「男子の本懐」などの作品で、広田弘毅、浜口雄幸といった気骨ある日本人の姿を鮮やかに現代に甦らせました。こうした城山作品の原点には、17歳で志願入隊した軍隊での悲惨な体験があります。戦争末期の軍隊の狂気をまのあたりにし、以来城山は、〈人の幸福や志が組織の大義によってそこなわれてはならない〉という強い思いのもと、組織のありかたやリーダーの資質を生涯問い続けました。
城山が世を去ってから3年が経ちました。今その作家生活を振り返ると、「気骨の作家」と呼ばれた城山のまなざしが、人びとの暮らしへ実にあたたかく向けられていたことに改めて気付かされます。城山は作品の執筆に際し、現場の空気と人びととの対話を求め、多くの土地を旅しました。最晩年の作品「指揮官たちの特攻―幸福は花びらのごとく」でも、特攻隊員の足跡を追って各地を旅し、国家という組織の大義の犠牲となった人びとの人生に思いを巡らせています。本展は、昭和という時代と人間を巡る旅を続けた作家城山三郎の生涯を「昭和の旅人」と位置付け展観するものです。