1948年宮城県に生まれた土岐千尋は、現在、長野県茅野市にて創作活動を続ける木漆工芸作家です。武蔵野美術大学産業デザイン科を卒業後、デザイン事務所勤務を経て1974年から1977年まで人間国宝の木漆工芸家黒田辰秋に支持しました。独立後、1990年、英国ビクトリア&アルバートミュージアムに梻(タモ)拭漆大箱作品が買い上げられるなど、曲線を自在に駆使したその作品は高い評価を得ています。
土岐が創り出す大小さまざまな箱は、従来の四角い箱の概念を飛び越えた造形となっています。自然の力学に逆らわない伸びやかで有機的な形は、方眼紙の上で綿密に練り上げられたものです。繰り返し塗られた拭き漆によりつややかな光を放つ表面の質感には、素材や造形の特質を熟知しそれを際立たせる、ゆるぎない匠の技が感じられます。木漆工芸の伝統技法とグラフィックデザイン的な発想が融合した作品は、工芸やアートといった分野の垣根を越えた広がりを持っています。
木という素材で自らの形を追求する作家の、研ぎ澄まされた美の世界をご鑑賞ください。