日本のやきものは多様で豊かな美を湛えています。“豪華”と“侘び”といった対極の美を愛でる歴史には、日本文化のしなやかな寛容性が深々とあらわれています。同時に、やきもののうつわは、手にとり口にふれるがゆえに、私たちの心と体にもっとも身近な美といえるでしょう。
経済や政治がめまぐるしく変動するいま、私たちの第一の宝とは、一人ひとりの心と体、そしてそこからたえず生まれてくる価値観に耳を澄ませる力ではないでしょうか。自然の風物に敏感な日本の文化は、精妙な感性とふくよかな身体性を育みました。やきものの薬は流れる水の表情を映し、やわらかな土肌は大地の温もりを伝えて、私たちの心身をのびやかに解放します。生きることのよろこびを確認し、価値あるものを見いだす―― やきものは暮らしに寄り添いながら、日本人の五感を磨いてきたのです。
美はきらびやかな装飾だけを意味するのではなく、私たちを慰め励ましてくれる大いなる力でもあるでしょう。本展は出光コレクションから、猿投(さなげ)、古瀬戸、志野、織部、古唐津、楽、京焼、古九谷、柿右衛門、鍋島、そして近代におよぶ日本陶磁の名品を一堂に展示し、やきものに託されたさまざまな美の姿を通して“麗(うるわ)しさ”とは何かをさぐります。時を超えて人々を魅了してきた美の源泉にふれる、ゆったりとした時間をお過ごしいただければ幸いです。