1960年、松谷武判(まつたに たけさだ1937年、大阪生まれ)は、戦後間もなく開発されたビニール系接着剤を使い、物質そのものが形作る有機的なフォルムを取り入れたレリーフ状の作品を発表しデビューしました。画面の上に膨らんだリ垂れたりしている官能的な形と質感は、新しい絵画の可能性を示すとして高く評価され、画家吉原治良が率いた前衛グループ「グタイ」(具体美術協会:1954年兵庫県芦屋で結成)のメンバーとして制作を始めます。29歳でフランス政治給費留学生として渡仏。その後パリのアトリエを拠点に、一貫して黒と白の世界を描き、活発な発表を続けてきました。黒船の鈍く黒い光に覆われたモノクロームの作品世界は、私たちの「生」そのものに訴える、緊張感や存在感を覚えずにはいられません。
今回の展示では新作約10点をはじめ、現在の作品につながる80年代後半以降のパリで制作された作品を紹介します。近年では、歴史的建造物の中でのインスタレーションや演劇とのコラボレーションなど表現の場を広げ、なお旺盛な制作活動をしている松谷武判の作品世界を、本展を通してぜひ体感して下さい。